自家農園で採れた無農薬野菜を使った
オリジナリティあふれた創作料理を提供。
東京は浅草橋、最寄り駅からはちょっと離れた場所に「おかず横町」という小さな商店街があります。全長200メートルほどの小径に、総菜や食材を扱う60余りの商店が建ち並び、夕方には近隣の主婦や会社員だけでなく、遠方から懐かしの味を求めて大勢の人が訪れるのだとか。
味農家(みのや)はそんなおかず横町の中にひっそりと佇んでいます。扉を開けると、厨房を取り囲むL字型のカウンターが。補助席1つ入れて9名で満席という小さな店ですが、2008年6月にオープンして丸2年、地元民のオアシスとしての地位を築いたのち、現在では遠くから月イチで通うお客様もいるそうです。
店を始める前に、埼玉県越谷市に農園を借りて野菜作りから始めたというご主人の河原潤治さん。無農薬栽培を基本として、現在は肥料も与えない自然栽培に取り組んでいます。「自然栽培で育てたうちの野菜にはエグミがほとんどなくて、瑞々しい、自然な野菜の甘みと香りが感じられると思いますよ」と言います。
料理は月替わりのコースを7品と10品の2種類から選べるほか、自家製燻製、ベーコン炒飯などの定番アラカルトも。飲み物は厳選された地酒、焼酎、ワイン、そして女性に人気という自家製サワーカクテルなども用意しています。
今日はそのコース料理から2品いただきました。1品目は「夏野菜の粒マスタード入りごまポン酢和え」。口に入れると意外や意外、温かい。トマトの自然な甘さ、ベビーコーンのしっかりとした食感、小松菜のほろ苦さなどがほどよい調和で口を楽しませます。
2品目は「細切り茄子とスナップエンドウの煮物とろろがけ」。こちらも夏の陽射しを燦々と浴びた野菜が上品に味付けされ、やさしい甘味がじゅわっと広がります。料理は一人ひとり器に盛ってくれるので、懐石料理のようにちょっとずつたくさんの種類を味わえると評判です。
目指したのは一流和食店ではなく
「5,000~6,000円で充分楽しめる店」。
河原さんはお店をやる前は、なんとサラリーマンでした。大学の理工学部を出て、理系のメーカーに勤めたのですが、入社したときにすでに「30歳までに人生の方向性を考えよう」と決心しており、その30歳で退社して料理の世界に入ったのです。
「昔から料理自体は好きで、人によく食べさせていたけれど、友人に『そういえばお前、中学生のころから大人になったらうまい酒と料理を提供する店をやりたいって言ってたよな』と言われて、ビックリしました。自分はまったく覚えてなかったから」と笑う河原さん。服部料理学校に1年通い、谷中の日本料理屋で5年修行したのち、自分が生まれ育った浅草に店を構えました。
店は「まず自分ひとりでできる範囲ではじめたかった」そう。谷中の店で働きながらイメージを固めていたころ、たまたまテレビで糸井重里さんが永田農法を紹介していて、「これはおもしろいかも」とピンときたとか。
「安全でいい素材を安く手に入れることを考えたら、自分で作るのが早い。いいものを扱っている農家さんもたくさんあるけれど、その分コストは高くなる。私はサラリーマン時代の経験から、上限5,000~6,000円の店にしたかったんです。それで一晩、おいしい食事と酒で楽しく過ごせればと」
谷中の店で働きながら週1で通える農園を探し、越谷の個人農家が運営する市民農園に申し込みました。「まさに初めて鍬も触ったし、土いじりもしたんですよ」。最初は永田農法を1年間。野菜の出来はいいけれど、土が硬くなる感じがして、翌年は有機農法にチャレンジ。それも出来はまあまあでしたが、肥料をあげるのは不自然ではないかと感じて、今年の初夏から自然農法に変えたのだそうです。
野菜の味は平均的、だから料理に使いやすい。
旨味もあって出汁や調味料に頼らなくていい。
夏には3日に1回、冬場も1週間に1回、越谷の農園まで通う河原さん。野菜を自分で作るメリットを尋ねると、「野菜を作っていると野菜のことがわかってくる。新しいレシピが浮かんだりと、自分の料理にも大きな影響がある。またお客様も興味を持ってくれる」という答えが返ってきました。
「実際、野菜自体の保ちが違うんです。収穫してしばらく経っても品質が変わりづらく、また味に変な癖がない。トマトだったら、すごく甘いとかすごく酸味がきいているとかではなく、平均的だけれど、料理には使いやすい。旨みも感じられるので、出汁や調味料に頼らないでもすごくおいしいんですよね」
ただ、プロの農業人ではないので、苦労も多いそうです。しかしそんな苦労の連続のなか、今年は初めて畑にカマキリが出たのがとびきりのいいニュース! カマキリは薬に弱いので、なかなか畑に出ない、つまり畑がより自然に近い証拠なのです。
終始笑顔で話をしてくれた河原さん、このオシャベリの楽しさも、きっと味農家の魅力に違いありません。
(レポート: k.hori/2010-08-11)
コルクボードで作った看板は河原さんの手作り。味農家というロゴも自分でデザインしたそうです。
「細切り茄子とスナップエンドウの煮物とろろがけ」
30坪ほどの味農家農園。雑草も取らない自然農法を実施。いずれはもっと広い畑を借りて、実験的な野菜づくりもしたいのだとか。
友人に描いてもらった絵は、四季の野菜4点の連作。夏はトマト、「では他の季節は?」と問うと「それはぜひ折々に見に来てください」と笑顔の河原さん。
「自分が考えた料理をお出しできるのがいま一番おもしろい。カウンターだとお客様の声がすぐに聴けるし、その反応を見ながらレシピを変えたりもできる」と河原さん。











