彩りの美しさ、噛んだときの音、口いっぱいに広がる匂い。
新鮮な野菜を使った料理で幸せな心持ちに。

 長野県上田市の東、自然に囲まれた眺望のよい丘の上に、日本一大きな純木造音楽ホールと野外ステージが併設された「信州国際音楽村」があります。ここでは各種音楽イベントが開かれており、敷地内では春には水仙、初夏にはラベンダーが咲きほこり、目も楽しませてくれます。
 その裏手の小道に1軒の瀟洒な建物がありました。「ル・ポタジェ」、意味は「菜園」。新鮮な野菜をたっぷりと使ったフレンチレストランです。
 南仏を思わせる温かみのあるデザインで、天井が高く、二面に広がる開放的な窓からは蓼科山から浅間山まで一望できます。ホームページがないのにも関わらず、地元のお客様だけではなく、長野周辺、関東近郊、遠くは名古屋などからも食べにこられるとのこと。
 ランチコースは1500円から。今回は前菜、スープ、メイン、デザート、珈琲の2100円のコースをいただきました。
 前菜は「夏野菜のタブレ」。冷やした夏野菜の煮込みにクスクスが添えられています。ズッキーニ、キュウリ、トマト、玉ねぎ、レタスはすべて自家農園で採れた無農薬野菜。味のアクセントとなるミント、色のアクセントとなるナスタチウムも、もちろん自家製。「ナスタチウムは1年草なんですが、毎年植えています。いろんな色がポタジェの庭ですっと咲き続けているんですよ」と店主の田中さんが笑顔で説明してくれます。
 2皿目は「ビーツの冷製スープ」。白い器に濃厚なピンク色が本当に美しい。一口いただくと、野菜本来の甘みがふわっと広がって、幸せな心持ちになります。
 メインは「カワハギのポワレ」。付け合わせの野菜は味も歯ごたえもよく、もちろん魚も焦げ目が香ばしく、身がふっくらとやわらかくておいしい。
 とにかくすべての料理の盛りつけの美しさ、彩りの美しさ、優しい味付けに、まるで美しい交響楽を自分のためだけに演奏してもらったかのように心が満たされました。

子どものころに野菜をオヤツのように食べたからこそ、
長野で店を出すなら「野菜」だと思った。

 田中さんは20歳で料理を志し、地元の有名な洋食屋さん「べんがる」で働き、34歳で独立しました。店は今年の8月で丸3年です。
「信州は野菜がおいしい」とよく言われるそうですが、長野県で生まれ育った田中さんにとっても「野菜はオヤツみたいなもの」でした。「学校から帰ってきて、裏の畑の強い西日が当たったトマトをもいで食べるのが好きでした。とても甘くて、小学生まではトマトは果物だと本当に思っていましたから」
 独立前には1年ほどフランス、スペイン、イタリアを廻ったそうです。「向こうの人たちが家庭でどんなものを食べているのかを知りたかった」ので、レストランで修行をするのではなく、田舎の農家の手伝いをしたりしながら家庭料理を食べさせてもらったのだとか。その結果、「長野で店をやるならやはり野菜だろう」と想い至ったのです。
 その後、「野菜は肉や魚に比べて鮮度の良さが重要で、なおかつ武器になる。そんな野菜が簡単に手に入らないなら、自分で作ればいい」と思った田中さんは、自家農園を作ろうと決めました。幸い祖母の畑や実家の畑があり、知識もあったので、開店前にすぐに準備に取りかかれたそうです。
 ごぼうのスープ、ズッキーニの花のソテーなど、オリジナルのアイデアは農園で野菜を触っているうちになんとなくイメージが浮かびます。
「色彩感覚があるって言われますけれど、僕自身は美術は苦手。でも感性というのは若いうちに磨かないとダメですよね。やはり意識する、気にするということがキレイなものを作る秘訣なのではないかと思います」

料理とは「食料を理解する」と書く。
野菜も肉も魚も、理解して、素材の良さを引き出していく。

 最後に田中さんは祖母の家の真裏の畑に連れていってくれました。大地にすくすく実った野菜たちを見ていると、これらがどんな料理に生まれ変わるのかと、本当にワクワクします。
「たとえば雨が降った直後に収穫した野菜とそうでないときに採った野菜は、持っている水分が違いますね。野菜の良さ、おいしさを引きだすためには、そういうことを理解して調理することが肝心です」と田中さんは言います。料理とは「食料を理解する」と書くから、それを意識しているだけ、と。
 土や肥料などももっと学び、時間をかけておいしい野菜を育てていくという田中さん。「ポタジェはまだまだこれからおもしろくなりますよ」と言う顔に、自信がみなぎっていました。

(レポート: k.hori/2010-07-07)
長野県の農家レストラン「Le Potager ル・ポタジェ」
高い屋根と開放的な窓も、店の魅力の一つ。まるで旅先にいるような高揚した気分が味わえる。
3カ所ある農園の1つ。アスパラガスの収穫が終わり、いまはカボチャ、ビーツ、ピーマン、茄子などが育ちつつある。
上から、「夏野菜のタブレ」「ビーツのスープ」「カワハギのポワレ」。
「店は子どもも大歓迎です。子どもが野菜を好きになってくれたら嬉しいですね」と店主の田中亮士さん。