旬の野菜をたっぷりと。
一噛みごとに大地のエネルギーが感じられる。

 仙台駅からタクシーで10分、会社が多く集まるエリア青葉区大町に、海鮮和食居酒屋「愚三昧 菜る海」はあります。
親方の鳴海克勇さんは北海道出身。自家農園のおいしい無農薬野菜と、三陸と北海道で獲れる新鮮な海の幸を出す店にしたいと、自らの「鳴海」という名に重ねて「菜る海」と名付けました。ランチタイムには近所の会社勤めの男女が、夜には30代後半から50代半ばまでの舌の超えた常連客で賑わうそうです。
 まずは人気メニューのひとつでもある、旬の野菜をたっぷり楽しめる「菜る海農園しゃぶしゃぶ」をいただきました。大根、アスパラ、トウモロコシ、パプリカ、人参、サニーレタスを薬味を入れたポン酢で味わう。しゃきしゃきの噛みごたえと、採れたて野菜特有の濃い味と香りが口に広がって、本当にいくらでも食べられそうです。「野菜が主役の料理ってなかなかないですよね」と鳴海さん。「すべてうちの農園で採れた野菜というわけではないんですが、それを中心に、旬のおいしい野菜を組み合わせて、通年で楽しんでいただいています」
 ほかにも看板人気メニューの「炭焼き穴子の白焼き」や、冷たくなってもなおおいしい「帆立じゃがコロッケ」、季節ものの冷やし鉢「冬瓜と飛龍頭の旨味ジュレがけ」など、まさしく「菜」と「海」を味わい尽くせる料理を堪能しました。

出身の利を活かして、珍しい北海道料理も提供。
“見えない仕事”で勝負している。

 鳴海さんは高校卒業後、東京の料理学校に1年通い、なんと最初はフランス料理のシェフを目指して、大手ホテルのフレンチレストランで働いたとか。そこで松坂牛やキャビアやアワビなどの高級食材を口にする幸福な機会に恵まれつつ東京生活を満喫していた日々に変化が訪れたのは、フランス8日間の旅から帰ってきたときのこと。「ものすごくしゃけ弁が食べたくて。オレって日本人なんだなあってしみじみ感じました」。
 体調を壊したこともあり、25歳でホテルを辞め、旭川で蟹料理の専門店をやっていた母方の伯父の元で和食を一から学び直したそうです。
「フレンチは当時の素材の流通が悪くてソースというものが発達した。逆に和食は流通はよかったから、新鮮な素材をそのまま楽しむ料理になった。しかし、シンプルに見えるけれども、そのぶん下処理、下味など“見えない仕事”がたくさんあるんですよ」
 その後、30歳で仙台に移り住み、3店舗を経験したのち、念願の自分の店を出したのが7年前。北海道出身という利を活かし、シシャモの刺身や、おいしすぎて鍋が壊れるほど皆でつつきあうことから「なべこわし」との異名を取る鰍(かじか)、ゼラチン質たっぷりの「ごっこ汁」、煮付けや唐揚げなどで食される「かすべ」など、北海道特有の魚介料理も提供し、地元の人々に喜ばれているそうです。

「趣味ではなく仕事です」と言いつつも、
おいしい野菜づくりへの情熱を燃やし続けている。

 店から車で40分ほどの「菜る海農園」には、土曜日の午前中に店のスタッフたちと一緒に行って世話をしています。メインの仕事は雑草取りと水やりで、収穫は最後の30分。元々は農家の方の土地を、ある縁から貸してもらっていて、野菜の育成に関しては農家の皆さんからも教えてもらっているそうです。
 でも鳴海さんの口からは意外な言葉が!「土いじりは趣味ではなく仕事の一貫です。料理をやっていなければ絶対にやってない(笑)」
 しかしよく聞くと、独立する前に働いていた店が農園を持っていて、採れたて野菜のあまりのおいしさに驚き、また「こんなに苦労して作っているんだと思ったら無駄にできない」と素材をより一層大事に扱うようになったのだとか。それで独立したときに自分でも始めたそうです。
 苗を植える時期が早すぎて霜で全滅させたり、追肥をしなかったせいでまったく育たなかったり、土を被っている黒いビニール袋を取るタイミングを逸して枯らせたりと数々の失敗談を経ての農園運営。「日々、土と野菜に教えてもらっています」と笑う鳴海さんの笑顔からは、おいしい野菜をぜひお客様に味わってもらいたいという願いがストレートに感じられました。

(レポート: k.hori/2010-07-06)
宮城県の農家レストラン「愚三昧 菜る海」
親方との会話が楽しめるカウンターは7席。ほか、カップルや少人数にオススメのこあがり席が2テーブルと、貸切35名様まで対応の「掘りごたつ」の個室がある。(写真提供:愚三昧 菜る海)
200坪の農地で育つ四季折々の野菜。夏はオクラ、トマト、茄子、キュウリ、モロヘイヤ、とうもろこし、枝豆、インゲンなどが収穫される。(写真提供:愚三昧 菜る海)
「菜る海農園」で採れた野菜を中心に、季節の野菜をおいしくたくさん食べられる人気メニュー「こだわり鍋 菜る海農園しゃぶしゃぶ」。
テーブルで自ら焼いて食す、菜る海の看板メニュー「カリカリふっくら炭焼き穴子の白焼き」。皮のカリっとした香ばしさと、ふわっとした身からあふれる脂が絶品。
「手間暇かけてできた野菜は本当においしい。旬が主役の和食をもっと若い人にも食べてもらいたい」と親方の鳴海克勇さん。(写真提供:愚三昧 菜る海)