「そばの村」に代々伝わる在来種のそばを
自家栽培・自家製粉でまろやかな味を守る

 東京湾に流れ込む荒川の源流に近い、埼玉県・旧荒川村(現秩父市)。豊かな水をたたえ、水はけのよい土を持ち、また昼夜の寒暖差が激しいこの地域は、昔からそばを栽培し、各家庭でそばを打つ食習慣があったそうです。
 「そば処 和味(なごみ)」は、2000年、そんな「そばの村」に誕生しました。この店は、近隣にそば畑を所有し、年間約1.5トンものそばを自家栽培で育てているという全国でも珍しいそば専門店です。
 毎年10〜11月に収穫される和味のそばの実は、翌年1月の大寒の時期に約10日間、玄そばのまま清流に浸されます。その後、冬の太陽と寒風にさらして乾燥させるという過程を経た玄そばは、当地で『関東寒ざらし(かんざらし)そば』と呼ばれます(季節限定 例年2月~3月)。
「寒ざらしをすると、玄そばに含まれる余分な灰汁が流し取られるんです。そうして作ったそば粉は、梅雨を過ぎ夏場を越えても、香りとまろやかな味わいを失わないんです」
 そう語るのは和味の二代目ご主人・江田徹さん。先代のお父様から店を継いで4年目という若旦那で、寒ざらしの過程も先代から見て学んだと言います。冬の厳しい自然環境の中、その手間がどれだけ大変かは察するにあまりあるほど。江田さんのそばへのこだわりが伝わってきます。

1日49食(50−1)限定。
1食分は店主が試食し、毎日採点

 和味では、自家の畑で穫れたそばだけをお客様に提供するため、1日49食と限定されています。50食ではなく49食とは中途半端な数だと思われるかもしれませんが、それも和味のこだわりがあってこそ。江田さんは、毎日50食分のそばを打って、そのうちの1食分は開店前に自ら試食しているそうです。
「そばは生き物のように繊細で、特に熱に対してデリケートです。打ち場の温度と湿度、打ち手の体温などによって、出来具合が微妙に変化するものなので、毎日お客様にお出しする前に、その日の出来をチェックしているんです」
 ご主人自ら確かめたその日のそばの味は100点満点で自己採点され、その点数は店内に掲示されています。
 取材当日のそばは83点。何事にも徹底的にこだわるご主人にしてはなかなかの数字のようです。
「早く食べてみたい!」と期待が高まるなか、江田さんは、特にそば通ともいえない記者のためにおすすめの食べ方もおしえてくれました。
「そばは、お客様にお出しした瞬間がまさに一番の食べ時です。なので、できればすぐに食べはじめていただきたいですね。時々、団体さんで、全員の料理がテーブルに揃うまで手をつけずに待ってる方もいらっしゃるんですが、ちょっともったいないなと思います」
 和味のそばをおいしく食べる秘訣は、「待たない」こと。そばが水を吸ってしまう前に、最高の味を楽しんでいただきたいと思います。

「そばの里」の看板を背負って10年。
全国のそばファンが知る店に

 さっそくいただくと、香り、みずみずしさ、歯応え、のどごし、どれもが抜群のおいしさでした。
 オープンからちょうど10年。栽培、収穫、製粉も自らの手で行ったうえ、打ちたて、挽きたて、茹でたてを食べさせてくれる和味の評判は、今や全国のそばファンにも知られるようになってきたといいます。
「ありがたいことで、噂を聞いてやってきてくれて、常連さんになってくれた方がたくさんいらっしゃいます。また、少し前ですが、ウチのそばを食べるためだけに滋賀県からいらしたというお客様にもお会いしました。滋賀から車でやってきて、そばを食べてまっすぐ帰ったそうです。その時、作り手として、たいへんありがたい気持ちでいっぱいになったことを忘れられないですね。
 そのようなお客様の期待に応えられるように、また、はじめていらっしゃるお客様にも気に入っていただけるように、もっとおいしいそばが作れるように努めていきたいと思っています」
 そして和味は、そばだけでなくサイドメニューにも自家製のこだわりを持っています。ザラリとしたそばの実の食感と大豆の風味が強調された『そば豆腐』(100円)、アーモンドに似た粒々感と独特の香りが自慢の『そばの実愛す』(300円)も、そばファンに人気とのことです。
 秩父荒川地区は、『しだれ桜とそばの里』とのフレーズを街の看板に掲げています。和味のそばには、その看板を背負うにふさわしいこだわりとおいしさがあります。

(レポート: y.ebashi/2010-06-18)
秩父鉄道の線路沿い一面に広がるそば畑。花が咲き、見頃となる9月中旬には、地元で『そばの花見まつり』が催される。(写真提供:そば処 和味)
秋そばを栽培する和味は、10月下旬に収穫の時期を迎える。玄そばは自宅で丁寧に保存され、お店で提供される。(写真提供:そば処 和味)
おすすめメニューの『和味膳』(1,680円)。山菜の天ぷら、地元産のそば豆腐に加え、6月には郷土風ちまき「つとっこ」もセットに(それ以外の時期は日替わりおこわ)。
地元産の『そば豆腐』(100円)。木綿と絹ごしの中間の固さで、食感は例えて言うならプリンのよう。ザラッとしたそばの風味と、大豆の香りが引き立つおいしさ。
人気のサイドメニューでテイクアウトもできる『そばの実愛す』(300円)。アーモンドに似た歯応えを持つ粒々のそばの実が、バニラの甘味を引き立てる。
座敷の壁のコルクボードに掲げられた採点表。朝に打ったそばの出来具合を毎日店主が自己採点する。取材当日は83点と、なかなかの出来栄え。
埼玉県の農家レストラン「そば処 和味」二代目店主・江田徹さん
二代目店主・江田徹さんは、地元・旧荒川村の生まれ。祖母や父が家庭でそばを打っている風景も見慣れており「技を見て学んだ」という。