50歳を機に長年の夢を叶えようと、
夫婦でカフェ&ギャラリーを開業

 大型プールで有名な、県営しらこばと水上公園の入り口近くにたたずむカフェ&ギャラリー。周囲をケヤキの木に覆われたテラスで寛いでいると、時おり心地よいそよ風が吹き抜けていきます。

 オーナーの中島さんご夫妻がお店を始めたのは2002年。出張の多いサラリーマンだった夫の勝治さん。新婚当時から、妻の由美子さんに「定年後は2人で喫茶店でもやろう」と話していた予定が少し前倒しとなったのは、50歳を目前にして転勤を迫られたことがきっかけでした。「一度しかない人生だから、このタイミングに2人の夢を叶えよう」。そう決めてからは、おいしいコーヒーの淹れ方や、自然食のレシピ研究、ギャラリーコーナーを飾る作家とのコネクションづくりなど、2人で着々と準備を進めていきました。建物は、かつてかき氷店を営んでいた実家の店を改築。そして畑仕事が得意なお父さま、暎治さんには、店で使う野菜や果物の生産を引き受けてもらえることになりました。

朝どりの自家製野菜をメインに、
無添加調味料で仕上げた自然食ランチ

 毎朝、その日使う分だけの野菜を収穫して店に運び込むのは由美子さん。採れたてのものをすぐ調理しているので、味にも新鮮さが際立ちます。店から車で数分の場所にある畑を見せてもらうと、氷のシロップに使うイチゴをはじめ、ナス、ゴーヤ、セロリ、ミョウガなどが所せましと植えられていました。少し奥にはカキ、ナシ、クリ、ブドウ、ウメ、ミカン……。果樹の種類も数えきれないほど。店に近い場所にある根菜の畑では、ちょうど「おじいちゃん」、暎治さんが作業中でした。毎日の作業時間は?と尋ねると、「だいたい1万歩くらいかな」。忙しいときには、孫娘で店のスイーツを担当する夏美さんが畑を手伝うこともあるそうです。

 お米は隣家の稲作農家で作られた特別栽培米を使用。農薬や化学肥料を通常の半分以下に減らして栽培されたもので、もちろんランチにも使われています。

 店に戻って、さっそくランチ「水庵弁当」を注文してみました。地元の女性陶芸家が手掛けた2段の重箱に入った料理に汁物、お漬物、コーヒーとミニデザートがついた、盛りだくさんなセットです。月ごとに内容は替わりますが、この月は蒸し野菜を中心とした彩り鮮やかな組み合わせ。素材の甘みを活かすため、料理に砂糖は使わず、調味料も無添加のものを厳選しているので、アトピーのお子さんや糖尿病の方にも好まれているそうです。見た目はあっさりとした印象ですが、絹豆腐と、ゴマ、みそでつくったコクのあるソースが添えられていたり、香草を効かせていたりするため、味の変化も楽しめて、気がつけばお腹がいっぱいに。数量限定なので、予約しておくと安心です。

プールの季節はケヤキの木陰で「夏季氷」。
じっくり仕込んだ手づくりシロップが自慢

 「カフェというからには、まずコーヒーがおいしくなければ」と語る勝治さん。ご自身もコーヒー好きなだけに、ネルドリップで丁寧に1杯ずつ淹れたコーヒーには、特に自信とこだわりを持っています。夏美さんお手製のタルトやパウンドケーキは、繊細な食感でコーヒーとも相性もぴったり。

 そして夏になると待ちかねたように注文が増えるのが「夏季氷」。氷は秩父源流水から、シロップは自家製のフルーツや野菜を仕込んでつくった、ここだけのかき氷です。小豆の生産から手づくりした宇治金時をはじめ、イチゴ、ブドウ、それにシソ、セロリといった変わったものまで、その時期ならではの旬の味は、多いときで10種類以上。「今年も新しい味を2つ考えていますよ」と勝治さん。それが何なのかは…、夏までまだ秘密だそうです。また、冬の時期のおすすめは田舎汁粉。江戸時代に越谷で開発されたもち米「太郎兵衛もち」を使うことにこだわり、この餅がなくなったらその年のお汁粉は終了だそうです。コシがあり、ほのかに甘い太郎兵衛もちは、和菓子にぴったりのやさしい味です。

 さまざまな人との出会いがもとでこの店が始まり、続けることでさらにその輪が広がったと感じているご夫妻。隣接する駐車場を開放して6月には「1日マルシェ」、11月には「収穫祭」として、日ごろお付き合いのある手づくりの店や生産者とともにイベントを開催しています。「埼玉なので海はないですが、『ちょっと水辺の避暑地に来たみたい』と感じてもらえたら」と、名付けた「内陸型リゾートカフェ・水庵」。そこにはゆったりとした空気が流れていました。

(レポート: r.osumi/2010-6-4)
埼玉県の農家レストラン「珈房 水庵」
夏の人気メニューは何といってもかき氷。イチゴのつぶ感を残したシロップは甘すぎず爽やかなのど越し。
埼玉県の農家レストラン「珈房 水庵」
畑でその日とれた野菜は、店頭にて格安販売もしている。店の料理で味わって、おいしかったと帰りぎわに買い求める人も。
埼玉県の農家レストラン「珈房 水庵」
デザートは栄養士をしていた娘の夏美さんお手製のトマトタルト。野菜の甘みや特徴を活かしたスイーツだ。
埼玉県の農家レストラン「珈房 水庵」
自作家ものの器が目にも楽しいランチの水庵弁当。野菜をメインにしているが、ボリュームたっぷりでお腹にも満足。
群馬の「農家レストラン みのりの里」
畑のことなら何でもわかる中島家のおじいちゃん、暎治さん。お店の野菜や果物はほとんど暎治さんの手によるもの。