地方でがんばる生産農家から直送された味と「思い」を届ける、実験的なレストラン。

「いいものを作っているのに売り先がない」
そんな地方の若手農家を積極的に取り上げたい。

 六本木駅からほど近い立地でありながら、隠れ家のようにひっそりと立つ一軒家のレストラン。店先に置かれた小さな耕運機が目印です。おいしい野菜を売り物にした店が今では多くある中で、「実家が農家の娘や息子たちで作るレストラン」という付加価値をつけ、オープンしたのは09年の夏。グランシェフを務める舘野真知子さんは、フードコーディネーターやケータリングなど、様々な仕事を経てきた食のプロフェッショナルであり、ご実家は、ぶどうや米を栽培する農家だそうです。「農業のいい部分もたいへんな部分も身近に見てきている自分たちだからこそ、できることがあると思うんですよね」と舘野さん。「地方には、いいものを作っているのに販路を広げられずに苦労している同世代の農家さんが多くいらっしゃいます。『日本の農業をもっと魅力ある産業にしたい』、という人たちの思いが集まって始まった店だけに、地方でがんばる人たちの食材を積極的に取り上げて、互いに刺激し合いたいと思っています」。こうして「農家の顔をリアルに感じるレストラン」としてのさまざまな試みが始まりました。

週ごとにクローズアップする農家を決めて、
こだわりの米や野菜をセットで仕入れる

 舘野さんが「実験レストラン」というように、見えるところ、見えないところで独自の方法を取り入れている六本木農園。まずユニークなのが、多くの農家を取り上げられるよう、食材の仕入れ元を週替わりで変更していること。選定については、生産者がどういう思いで作っているのかを重視しており、今のところ、契約農家は関東近県を中心に全国で30戸程度。作っている現場は必ず訪れるようにしているそうです。また「米作りには農家の『思い』がよく表れる」との考えから、野菜を仕入れる際、米も作っている農家なら必ず併せて注文することにしているそう。

 さて、さっそくコースメニューのなかから土鍋炊きごはんをいただいてみました。蓋に六本木農園のロゴが入った有田焼のお鍋は特注品。お米が良質であることはもちろんのこと、「この土鍋の土がいいんですよね。遠赤外線効果により米の中までぐっと火を通すから、炊いたごはんがより美味しくなるんですよ」と舘野さん。蓋を開けると、つやつやとした黒豆入りごはんが湯気の中から現れました。ちなみに取材に訪れたこの週の仕入れ元は、複合循環型農業をしている富山の橋本さん。テーブルに運ばれた料理の食材――有機栽培の黒豆、合鴨農法で育てた棚田米、季節の野菜、平飼いの卵など、すべて橋本さんの農場から直送されてきたものです。香ばしく、ほっこりとした甘みが広がる黒豆の歯ごたえ、輸入の飼料ではなく、農場でとれた野菜を食べてのびのび育ったニワトリが産んだ卵の淡い色。バリバリとした食感も楽しい旬の生野菜……、こだわりの食材には発見がいっぱい。スタッフに話しかけてみれば生産者の情報や、収穫までの裏話も聞けるかもしれません。

生産者と店とお客さんがいつも対等な立場で
語り合えるような関係性をつくりたい

 料理を提供するだけでなく、毎月1回行われる、生産者を招いてのトークショー兼即売会も好評のようです。「生産者と店とお客さんが対等な関係で農業を語り合えるようにして、みんなで日本の農業を盛り上げていくことが六本木農園の理想」と、舘野さんは語ります。
 店を立ち上げてから半年。シェフとして、また「都会に暮らす農家の娘」として試行錯誤の連続だったとか。「以前は『六本木の田舎に来た』という雰囲気を出すために、田舎の人のおもてなしをまねて、とにかくボリューム満点の野菜をお出ししていたんです。ところがなかには食べきれない人もいて。残念そうにしているお客さんを見ているうちに違うサービスの方法もあるのかな、と」。現在も過渡期だという六本木農園。存在が知られるにつれ、日々さまざまなプロジェクトの話が持ち込まれたり、今後に向けて新たな計画を準備中だったりと、着実に活動の根は広がってきているようです。
(レポート:r.osumi/2010-1-25)
東京都の農家レストラン「六本木農園」
有田焼のオリジナル釜で炊かれたごはん。黒豆は、ほっこりとして噛むほどに深い味わい。
東京都の農家レストラン「六本木農園」
栄養と味のバランスを考えて中にもちキビを入れただし巻き卵と、定番人気の生野菜。
東京都の農家レストラン「六本木農園」
週ごとに入れ替わる契約農家からは、こだわりの野菜や米がどっさりと直送されてくる。
東京都の農家レストラン「六本木農園」
テーブルと土壁の内装は09年夏のオープンを前にワークショップを開き、総勢200人の手で仕上げた。
東京都の農家レストラン「六本木農園」
グランシェフの舘野真知子さん。「がんばっている農家さんの応援団としておいしい料理を提供したい」